遺産承継業務について①
遺産承継業務とは
相続発生から長期間手続きをしていなかったり、被相続人が離婚や再婚を繰り返したりしていると、相続関係が複雑になってしまうことがよくあります。また、親族の付き合いがあまりないので他の相続人の連絡先が分からず、相続手続きを取りたくても取りようがないというケースも多いです。
こんなときに専門家に依頼して相続人全員の調整役となってもらい、相続人の調査から相続人間の連絡、遺産分割協議のサポート、預金口座の解約、協議に基づく遺産の分配など、遺産承継に関する業務全般を依頼することができます。
財産の管理や処分は特定の資格がなくてもすることができますが、司法書士は、司法書士法施行規則31条を根拠として、依頼者からの委任を受けて相続財産の管理や処分に関する業務を行うことができるとされています。法令でこれらを業務として行うことができると明記されているのは司法書士と弁護士のみです。
1.相続人の調査
まずは相続人の方と面談のうえ、遺産承継業務委任契約を締結します。相続人の一人からの委任があれば業務に着手できますが、最終的には相続人全員から委任を受けなければ手続きを進めることは困難です。
最初に行うのは相続人の調査です。被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人の戸籍等を取得し、相続人を確定します。
相続人の一部に行方不明の方がいる場合、戸籍や戸籍の附票による調査を行い、郵送等で連絡しますが、どうしても連絡が取れないときは、不在者財産管理人選任の申立てや失踪宣告の審判の申立てをするなどの方法を取ることが考えられます。
不在者財産管理人は行方不明の相続人の代わりに財産を管理する者を選任する制度で、失踪宣告は行方不明の相続人を法律上死亡したことにする制度です。どちらも家庭裁判所に申立てをすることになります。
相続人の一部に認知症などにより判断能力が欠けている方がいる場合は、本人が遺産分割協議を行うことができないため、成年後見人等の申立を検討します。成年後見人等が選任された後は、この成年後見人等との間で遺産分割協議を進めていくことになります。
2.相続財産の調査
相続の対象になる財産は、動産・不動産・債権・債務などいっさいの権利・義務です。不動産・現金・預貯金及び有価証券等の金融資産などのいわゆる「プラスの財産」はもちろん、借金やローンの残債などの「マイナスの財産」を把握しておくことも重要です。マイナスの財産のほうが大きければ、相続放棄の申述をすることも選択肢に入ってきます。
相続放棄は、相続が発生したことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述しなければいけませんが、次順位の相続人がマイナスの財産を承継することになりますので、黙って相続放棄をすると親族間のトラブルに発展する恐れがあります。できるだけ、事前に専門家に相談されることをおすすめします。
2-1 不動産の調査
被相続人が不動産を所有していたかどうかは、固定資産税・都市計画税の納税通知書などの課税関係書類、登記済権利証・登記識別情報通知などの権利関係書類によって明らかになります。
権利関係書類を紛失しており、不動産が免税点以下の非課税物件で納税通知書が交付されていない場合は、被相続人が不動産を所有していたかどうか分からない場合があります。こうした場合には、名寄帳(固定資産税課税台帳)を取得してみましょう。
名寄帳は納税義務者が所有している不動産を一覧にしたもので、不動産所在地の市区町村で取得することができます。札幌市では各市税事務所が窓口になります。
2-2 預貯金の調査
相続人が被相続人の通帳やキャッシュカードを保管している場合は、その金融機関で残高照会や口座の現存照会をすることになります。仮に通帳やカードが見当たらない場合でも、利用していた可能性の高い大手金融機関には照会することが望ましいです。
預貯金の現存照会には、一般的に被相続人である口座名義人が死亡したことを証する除籍謄本、相続人であることを証する戸籍謄本、委任状、委任者の印鑑証明書、受任者の本人確認書類(運転免許証)などが必要です。
2-3 相続税について
相続財産の調査が終わると、遺産承継業務受任者は被相続人の相続財産目録を作成します。この際に多いのが、相続税に関する問い合わせです。
相続税は、相続や遺贈によって取得した財産にかかる税金で、財産を取得した個人に納税する義務があります。
相続税の計算は、プラスの財産(相続財産・みなし相続財産等)から非課税財産やマイナスの財産(借金・葬式費用等)を差し引いて課税価格を算出し、そこから基礎控除額を引いた額が課税遺産総額となります。
相続税の基礎控除額は3000万円×(法定相続人の数×600万円)で、法定相続人が2名なら4200万円が基礎控除額となります。この場合、課税価格が4200万円以下なら基礎控除の金額を下回りますので相続税はかかりません。
注意すべきポイントは、死亡保険金や死亡退職金など、本来は相続財産ではない財産(みなし相続財産)も相続税の計算に含める場合があるという点です。また、法定相続人に養子がいるときは、法定相続人に含めることができる人数は2人まで(実子もいる場合は1人)という点も民法の考えと異なります。
なお、司法書士は具体的な案件について相続税に関するアドバイスをすることができませんので、相続税が課税される場合には税理士さんをご紹介させていただきます。
相続税について、より詳しく知りたい方は下記のサイトをご覧ください。
「相続税の基礎2020|計算方法・相続税かかる?申告有無の判断まで解説!」